本田圭佑(CSKAモスクワ)の良いところ、『フィジカルの面でも、ぶれない人がいると楽なんですよ』ー内田篤人(シャルケ)ー
ブレない自分を持つ!
5月12日のリーグ戦の途中で右太ももを痛めて戦列を離れていた本田は、1日に行われたアンジとのロシアカップ決勝に右MFとして20日ぶりに先発。後半22分までプレーして復調をアピールし、遠くロシアからアルベルト・ザッケローニ監督を安堵させた。
日本への長距離移動による疲れ、6時間ある時差の影響、完全に戻っていない肉体のコンディションや試合勘の欠如と、懸念材料は多いが、本田の復帰でザックジャパンは、どう変わるのだろうか?
DFの内田篤人(シャルケ)は、こんな意見を口にした。
「あの人は一番勝ちたがっているというか誰よりも貪欲なんですよ。周りのこととかどうでもいいという感じで、本当にドンッと(中央に)いるから。ぶれない人が一人いると精神的に楽。しかもフィジカルも強い。あの人が相手選手に吹っ飛ばされるシーンって見たことがないじゃないですか。ミスをしたとしても、『何とかすんじゃね』って雰囲気があるからね。ボールを預けられるし、ゲームも落ち着く。フィジカルの面でも、ぶれない人がいると楽なんですよ」
本田のフィジカルの強さは、大男たちがそろうオーストラリア代表たちも認めている。
195cm、95kgの巨体を誇るセンターバックのサシャ・オグネノブスキは、自身よりも、ひと回り以上も小さい182cm、76kgの本田への警戒心を強めている。
「本田はフィジカル的に我々とマッチアップできる選手の一人。非常に危険な選手であり、我々は常に彼から目を離してはいけない」
ザッケローニ監督は、ブルガリア代表との親善試合の前半で試した3‐4‐3をオーストラリア戦では封印することをすでに選手たちに伝えている。もちろん、オーストラリア戦では慣れ親しんだ4‐2‐3‐1で戦う考えで、本田のポジションはトップ下。香川真司(マンチェスター・ユナイテッド)は左だ。ブルガリア戦ではゴールが遠かったが、戦術的には本田がトップ下に復帰することで何がどう変わるのだろうか。
元日本代表MFの水沼貴史氏は、フィジカルコンタクトが強く、相手ゴール前で圧倒的な存在感を放つ本田が、そのトップ下に入ることで「2つの場所」を作ることができると指摘する。
「ボールを預けられる場所と、時間を作れる場所。ワンタッチでポンポンつないでいく攻撃もいいけど、それができなかった時に時間を作れる選手がいることの効果は大きい。周りの選手、特に左サイドの香川がより生きることは間違いない。ボールをキープできる本田が、時間を作ることで、香川は動き直せる時間や新たなスペースを見つける時間を得られる。本当にわずかな時間だけど、それはとてつもなく大きい。まだまだコンビネーションを成熟させていく必要があるけど、本田と香川がお互いに特徴を理解し合えた時にはものすごいパワーを生みだすと思う」
本田復帰でザックジャパンはどう変わるか?
「(本田は)攻撃の中でリズムに上手く変化をつくれる選手なので、そういうところでみんな信頼を置いていると思う。それを上手く発揮していきたい」
ボールキープで時間を止めることのできる本田と、狭いスペースを敏捷性を生かしてすり抜けていく香川の組み合わせにこそ、日本が待ち望んでいた決定力につながる化学反応が生み出されるはずだ。
後方からパスを供給するMF遠藤保仁(ガンバ大阪)は「緩」から「急」へ、あるいは、その逆の変化が大柄なオーストラリアを翻弄する「武器」になると言い切った。
「(本田と香川の)2人とも攻撃のスタイルが違うので、それを上手く生かせれば脅威になる。特に真司のようなプレースタイルは大きな選手が嫌がると思うので。真司を使えれば圭祐のところが空いてくるし、逆に圭祐がキープすれば全体的にプッシュアップできる。上手くかみ合っていければいい」
時間軸が異なる2人のアンバランスさが、香川のスピードをより際立たせる。相手のプレッシャーも本田と香川とに分散する。日本代表に大いなるメリットをもたらす本田の復帰は、リスクを冒す勇気と危機感を欠いたままブルガリアと戦い、ホームで無残な姿をさらした仲間たちを必然的に鼓舞する効果を生み出すのは間違いないだろう。ユーモアをまじえながら内田が言う。
「決して口数が多いわけじゃないけど、あの人は背中で引っ張るタイプだからね。ああいう人がいるとミスができない。しっかりやらなきゃ、となる。やっぱりあの人は誰にでも文句が言えるから、そこがいいんじゃないの。誰に対しても平等で、常にチームをよくするために考えているから。別にあの人に頼っているわけじゃないけど。待望論なんて出たら、ちょっと嫌だな(笑)」
内田らしい表現だが、内外に生まれつつある本田待望論は、実のところ歓迎なのだろう。精神的支柱として本田の復帰が、自信を失いかけているチームに与えるメンタル面での影響は計り知れない。
ただ、本田が、2月のラトビア代表との親善試合以来となる代表戦へ向けてチームメイトたちと一緒に練習できるのは3日の公式練習しかない。いくら慣れ親しんでいるシステムとはいえ、狂いかけた4-2-3-1に加わって、たった1日でアジャストできるのかという不安は残る。
DF長友祐都(インテル)はそんな不安を一笑に付した。
「アイツならメンタルをコントロールして、すぐに準備してくれますよ」
バイエルン・ミュンヘンとのドイツ杯決勝を戦ったFW岡崎慎司、DF酒井高徳のシュツットガルト勢もチームに合流する。5大会連続5度目のW杯出場へ、それも史上初めて青いサポーターたちの眼前で予選突破の歓喜を共有できるまたとない大一番へ。頼りになる男のトップ下復帰で、ザックジャパンが再び戦う集団へと姿を変えることは間違いない。
(文責・藤江直人/論スポ)