「価値観の違い」
乗客は皆、静かに座っていた。
…
ある人は新聞を読み、ある人は思索にふけり、またある人は目を閉じて休んでいた。
すべては落ち着いて平和な雰囲気であった。
そこに、一人の男性が子供たちを連れて車両に乗り込んできた。
すぐに子供たちがうるさく騒ぎ出し、それまでの静かな雰囲気は一瞬にして壊されてしまった。
しかし、その男性は私の隣に座って、目を閉じたまま、周りの状況に全く気がつかない様子だった。
子供たちはといえば、大声を出したり、モノを投げたり、人の新聞まで奪い取ったりするありさまで、なんとも騒々しく気に障るものだった。
ところが、隣に座っている男性はそれに対して何もしようとはしなかった。
私は、いらだちを覚えずにはいられなかった。
子供たちにそういう行動をさせておきながら注意もせず、何の責任も取ろうとはしない彼の態度が信じられなかった。
周りの人たちもイライラしているように見えた。
私は耐えられなくなり、彼に向って非常に控えめに「あなたのお子さんたちがみなさんの迷惑になっているようですよ。
もう少し大人しくさせることはできないのでしょうか」と言ってみた。
彼は目を開けると、まるで初めてその様子に気が付いたかのような表情になり、柔らかい、物静かな声でこう返事をした。
「ああ、本当にそうですね。
どうにかしないと…。
たった今、病院から出てきたところなんです。
一時間ほど前に妻が…、あの子たちの母親が亡くなったんものですから、いったいどうすればいいのか…。
子供たちも混乱しているみたいで…」
その瞬間の私の気持ちが、想像できるだろうか。
私の価値観は一瞬にして転換してしまった。
突然、その状況を全く違う目で見ることができた。
違って見えたから違って考え、違って感じ、そして、違って行動した。
今までのイライラした気持ちは一瞬にして消え去った。
自分の取っていた行動や態度を無理に抑える必要はなくなった。
「何か私にできることはないでしょうか」
一瞬にして、すべてが変わった。
引用元: (7つの習慣 スティーブン・R. コヴィー)
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